教育現場の風

今年も一年間ありがとうございました。来年も元気で頑張ろう。

今年の大晦日は竹田病院８０７号室であった。

母がいつもの夕食（管からの流動食）が終わるとマリ子と３人でビールで乾杯した。

今日も元気でいてくれてよかった。心の中で「ありがとう」とつぶやいた。

　

今日は母と一緒に３人で病室に寝ることにした。

昨晩、母が明日は大晦日だから一緒にこの部屋で寝ようと言った。看護師さんもそうしたほうがいいですよと勧めてくれた。

朝、昨日まで宿泊していた会津若松駅そばのフジグランドホテルから荷物をまとめて病院にやって来た。

夕方看護師さんが簡易ベッドとサマーベッドを運んでくれた。

病院近くのスーパーへマリ子と大晦日の食事の買い出しに行った。

母の好きな馬刺しと酢だこも買った。飲み込めないが味だけでも味わってあとは口から出せばいい。

看護師さんから教わった。

 

母は目を丸くして「美味いなあ」と口パクした。

ビールはゴクンゴクンと少しずつだが呑めるようになった。

マリ子が携帯で撮影した。

携帯を向けられるといつものようにピースしてすました表情を作った。

３人で笑った。いつもと一緒だ。この時間がずっと続いて欲しい。

 

昨年までの大晦日の晩は母とマリ子の手料理が所狭しとテーブルに並んだ。

夕方６時頃から節子（妹）と４人で乾杯する。

「今年もよくやった。来年も健康で頑張ろう」。

そんな話をしながらビール、日本酒、焼酎、ワイン。どんどん進む。母の年越しそばは最高だ。

出汁は母が作る。マリ子がゆでる。節子が運ぶ。美味かったな。楽しかったな。

 

今年も一年間ありがとうございました。来年も元気で頑張ろう。

雪の会津で温かな人情に触れることができた一夜であった。

夕方、東京から友人の玉川弘文先生（都立王子総合主幹）がお見舞いに来てくれた。

玉川先生は会津若松出身である。お盆や正月に実家に帰省する時、必ず会津田島の実家に寄ってくれる。私とマリ子がいないときでも母と節子を訪ねて頂いたこともある。

毎回母やマリ子の手料理で一杯やる友人だ。

玉川先生はビールを一杯飲むとあっという間に真っ赤になる。

そして帰り際には母に「お母さんはいつも元気だね。

また遊びに来るから風邪ひかないでね」と言って母と握手する。母も「玉川先生また来てな」と見送る。

 

数日前、電話で母のことを玉川先生に伝えた。

「うそ！」と言ったまま声が詰まった。「若松に帰ったら必ず行きます」。

 

「今日は菊地さんとマリ子さんのお疲れさん会を私と妻でやります」。嬉しかった。

奥さんの行きつけの店に案内して頂き、美味しい料理を食べながら会津の酒を四人で一杯飲んだ。

奥さんもなかなかの酒豪だ。話も気さくで面白い。玉川先生はいつものように真っ赤っか。

一人で飲んでいるようだ。

　

雪の会津で温かな人情に触れることができた一夜であった。

３週間ぶりのビールは母にとって最高の贈り物

昨日緩和ケアの責任者渡辺睦弥先生と面談した。

癌による心と身体の苦痛を和らげ自分らしい生活を送れるようにするケアのことを緩和ケアということを伺った。

癌になると痛み、倦怠感、吐き気などの様々な症状が現れる。

また気持ちの落ち込み、悲しみなどの精神的な苦痛も現れるという。

身体的、精神的苦痛を和らげ、患者の生活の質を維持・向上させるための医療チームが緩和ケアチームだ。

 

「お母さんは今は元気に見えるかもしれませんが、未分化癌は進行が早いので、いつどうなるかわかりません。年を越す前にその日がやって来るかもしれません。

私たちは薬を使って痛みや苦しみがないよう全力を尽くします。

しかし現実はそういう癌であることを知っていてください。

何かさせてあげたいことがあれば何でも言ってください」としっかりした口調で言われた。

 

冷静に現実を受け止めようとしても涙が溢れるばかりであった。

「母はお酒や肉、刺身、ラーメンが大好きです。今となっては肉や刺身を食べさせることは出来ません。非常に残念です。母も悔しい思いでいるでしょう。家では毎晩晩酌していました。出来ればお酒を飲むことを許可してください」。

「この部屋は個室です。飲み過ぎなければ飲んで頂いても構いません」。

 

夕食（のどの管から流す流動食）終了後、スーパーから買ってきたビールで母とマリ子と三人で乾杯した。その瞬間母は笑顔で口パクした。

「美味い！」。それは私とマリ子にもはっきり伝わった。

３週間ぶりのビールは母にとって最高の贈り物だったようだ。母に背中を向けて涙した。

早朝東京を出発して会津若松竹田病院に帰って来た。３人の心がひとつになった。

早朝東京を出発して会津田島に帰って来た。

家のことを整理して、１時間かけて会津若松の竹田病院に夕方着いた。

病室で母は私たちの到着を待っていた。

放射線治療も３回実施した。

 

母は口パクと身振り手振りで話しかけてきた。

私にはわからないこともあるがマリ子にはよく伝わっているようだ。時々二人で笑っていた。

 

母が自分の首の左側を指差した。触れてみるとこの間より幾分小さくなっているように思えた。

「小さくなってきたね！」と言うと、笑顔で大きくうなずいた。

 

マリ子も触れた。「本当だ。小さくなってきたね。ママよかったね！」。マリコも笑った。

母もまた大きくうなずいた。

 

みんなで笑った。病室がパッと明るくなった。

 

「悲しいから泣くのではない。泣くから悲しくなるのだ」。

「楽しいから笑うのではない。笑うから楽しくなるのだ」。

心理学で学んだ言葉を実感した。

 

出来る。大丈夫。大成功。

絶対乗り越える。

 

３人の心がひとつになった。

人の苦しみを自分のことのように思える人は素晴らしい。

昨日東京に戻った。１０日から東京と会津若松を２往復。疲れもたまって来た。

体重も減って来た。マリ子は心配してくれるが自分のことを考える余裕もない。

 

夜、マリ子と二人で冨久鮨（厚木美郎さん）、焼肉高麗（高山相範さん）、ＫＥＮ３（設楽賢一さん）と三軒はしごした。

久しぶりに地元を満喫した。みな母のことを心配して頂いた。

 

「いつ亡くなってもおかしくない」と医師から伝えられたことを話すと残念がって頂いた。それ以上に私たち夫婦をねぎらって頂いた。本当に有難い。

 

人の苦しみを自分のことのように思える人は素晴らしい。

 

思う存分飲んだクリスマスイブとなった。

「また田島に遊びに来てください」と笑顔で見送った。

笠間陽弘先生、端山淳子先生ご結婚おめでとうございます。

 

マリ子と二人で披露宴にお招き頂いていたのに参加できず大変残念。

 

今年８月１０日、お二人は会津田島に遊びに来て頂いた。

早朝６時、笠間先生の自動車が会津田島の実家に到着した。

大内宿、会津若松鶴ヶ城、塔のへつりを案内し、夜は会津田島の大寿しで宴会。

２次会は叔父（大山宏・ＫＡ教育相談役）に招かれ盃を交わした。

元気な母も喜んだ。一杯飲んだ。

 

飲み過ぎがたたり、翌日のゴルフ（白河高原カントリー）は散々だった。昼は大好きなビールをみんな残した。

　

帰り際、母は「また田島に遊びに来てください」と笑顔で見送った。

 

披露宴に参加できないことをマリ子がお伝えした時、端山先生から「今はお母さんのそばについてあげてください」と。

心温まるお言葉を頂戴した。

 

笠間先生、端山先生を幸せにしてあげて欲しい。そう思っているのは私たちだけではない。

お幸せに。