数々の名作を書き続けた文豪、山本周五郎。
彼のペンネームは、少年時代に丁稚奉公をしていた店の主の名前であると言う。この店主は文学にも関心を持っていた。若き周五郎の才能を見出し、文学の道で大成していけるよう、あらゆる点で応援を惜しまなかった。店主はよく、自らの心情を周五郎に語ったと言う。「私がお前のような好青年に巡り会えたことは、私にとっても大きな仕合せだった。だからお前が一人前の物書きになれたら、そのときは誰でもいい、お前の前に現れた好青年に、出来るだけのことをしてやってくれ。それが本当の人間の財産というものだ」。
周五郎はこの店主に終生感謝と敬愛をささげた。この恩人の名をペンネームとして人情味溢れた名作を書き続けた。やがて名を成した周五郎は、恩人の言葉の通り、青年のために心を砕いた。自らの原稿を担当した出版社の青年に、恩人の言葉を紹介し、こう強調したと言う。「君も僕くらいの年になったら、おやじ(店主)や僕のように心掛けてくれたまえ。君の前に現れた好青年のために、出来るだけのことを尽くしてやってくれ。もしそのとき、経済的にそうは出来ない状態であったならば、その心だけは持ち続けて欲しい。それが真実の人間の財産というものだ」。
人は自分ひとりだけで成長してきたわけではない。沢山の人たちに守られ、教えられ、助けられてきたはずだ。偉くなると自分だけでやってきたような顔をする人がいる。苦しかった時のことを忘れてしまう人もいる。受けた恩すら忘れてしまう人もいる。
小さいとき、亡くなった祖父に教えてもらった。「人にしてあげたことは忘れろ。人にしてもらったことは一生忘れるな」と。
祖父の言葉を実践し、そして、自分が受けた恩をこれからの子ども達に返していける自分であり続けたい。
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